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ルーベンス作『東方三博士の礼拝』(リヨン美術館所蔵)

ルーベンス作『東方三博士の礼拝』(リヨン美術館所蔵)

1月6日に公現祭(エピファニー)を祝う

 

新年を迎え、フランスでは1月6日に公現祭(エピファニー)を祝うのが習わしで、ギリシャ語のエピファネイア(現れ)を語源とする公現祭は、復活祭、聖霊降臨祭とならんでキリスト教の最も古い祝い事の一つ。

新約聖書(マタイによる福音書)に、東方で救い主イエス誕生の兆しをみた博士たちが、ベツレヘムの聖母子を訪ねたことが記されており、キリスト誕生の際に東方からやってきた博士たちによってキリストが公に現れたことを記念する日が公現祭だ。聖書には博士の数は明記されていないが、「黄金」「乳香」「没薬」の3つの贈り物がなされたと記されていることから、博士は3人というのが通説となっている。7世紀頃から博士は「メルキオール」「ガスパール」「バルタザール」の三賢王であり、3つの大陸(アジア、アフリカ、ヨーロッパ)を象徴すると伝えられている。 

この公現祭にまつわるエピソードは『東方三博士の礼拝』、あるいは、博士のことをマギといい『マギの礼拝』とも呼ばれ、中世の時代から18世紀にかけて、多くの画家たちがインスピレーションを得てきた画題だ。17世紀のバロック絵画の巨匠、ピーデル・パウル・ルーベンス(Pierre-Paul RUBENS、1577年-1640年)もそのひとり。ルーベンスは『東方三博士の礼拝』を主題に複数の絵画を描いている。そのなかで、リヨン美術館が所蔵する1617年~1618年に制作された作品をご覧いただきたい。

 

 

【データ】
作品名:東方三博士の礼拝(L’Adoration des Mages)

作者:ピーデル・パウル・ルーベンス(Pierre-Paul RUBENS)
制作年:1617年-1618年
寸法:高さ251cm、横幅328cm
所蔵:リヨン美術館(Musée des Beaux-Arts de Lyon) 

 

場面は左上から光が差し込む暗い厩舎のなか。聖母が藁の寝具の上に立つ幼子イエスを支えながら、東方からの来訪客を迎える。長老の博士がイエスの前でひざまづき、イエスの片方の足に接吻し、イエスは博士の頭に手をおき、礼拝を受け入れる。後ろでは兵士や群衆たちがその様子を興味津々に眺めている。 

この絵は宗教画というよりも日常の一場面を描いている印象を受ける。登場人物の一人ひとりの表情が人間味にあふれ、また、博士の横にいる二人の小さな男の子の存在が家庭的な雰囲気を漂わせているからだろう。絵画は高さ251cm、横幅328cmの横長のキャンパスに描かれ、縦長の祭壇画として描かれたものではないようだ。 

ルーベンスは、先代の画家たちと同様に、この絵の主人公である三博士に年齢差を与え、「老年」「壮年」「青年」として描いた。それにしても豪華な衣服をまとった3人組ではないか。メルキオールは頭がはげた白髪の老人で、イエスの足に接吻している人物だが、毛皮をトリミングした金糸で織られた光沢のあるマントを羽織っている。その後ろにいるのがガスパール。ボリュームのある赤いマントを羽織り、お付きの使用人が長いマントの裾を支えている。足元を見ると、ガスパールのピンクのリボンで結ぶサンダルがじつに洒落ている。三人目は褐色の肌をした立派な体格のバルタザール。鮮やかな光沢を放つ金色のトゥニカを着て、しなやかな青いマントを肩からたらし、涼しげな目で遠くをみつめ、まるでモデルのようなたたずまいではないか。

絵を見ている人は、聖マリアの白いドレスに目が留まり、それから、かがんだメルキオールの黄色いマントからガスパールの赤いマントへと視線を移し、後方のバルタザールへと導かれていく。

さすが、バロックの巨匠たるルーベンス!登場人物の配置はしっかり計算されている。横長の長方形の枠組みに、右下から左上に向けて走る対角線に沿ってフリーズを描くように登場人物を並べ、絵を見ている人は三博士を目で追うことで絵の中に引き込まれてしまう…。こうして絵に躍動感がみなぎるのだ。 

背後に群がる使用人や兵士たちにも目が離せない。一人ひとりの表情や態度がとても豊かに描かれていて、とくに彼らの視線は四方に向けられいるため、厩舎という閉ざされた空間というよりも、どこか開かれた空間のなかにいる印象を受ける。さらにいえば、背後に所せましと人や馬を配置させて密集感を強調し、前面の空間にはゆとりをもたせる。こうして空間密度に濃淡をあたえ、後方から前方に開かれた空間演出を実現させているのだ。 

それがバロックなんだ!。開かれた構図、対照的な色づかい、濃淡のある空間密度、装飾の多用、光と陰影を効果的に用いて劇的な空間を演出するのがバロック様式といわれるものだ。ルーベンスはやっぱりバロックの天才だ。 

ところで、ルーベンスは聖マリアを描く際に妻をモデルにするときいているが、この作品に描かれている聖マリアの淡麗な横顔は最初の妻であるイザベラ・ブランド(Isabella Brant、1951年-1626年)がモデルなのだろうか?

最後に、とっても気になるのが、絵の中央で大人たちの挟まれて立つカメラ目線で私たちを見ている小さな少年だ。没薬を持っているのだが、彼はいったい誰なのか…?調べてみたが誰なのか不明、あしからず。 

こんなふうに、1枚の絵を探偵のように鑑賞してみるのはじつに楽しい。 

ルーベンスは「東方三博士の礼拝」をモチーフに10~15作品を制作したといわれている。現存する絵画で有名なのが、1609年から1629年に制作されプラド美術館に所蔵されている作品、1624年に制作されアントワープ王立美術館に所蔵されている作品だ。 

さて、公現祭に話を戻そう。フランスでは1月6日の公現祭を祝って、フランジパーヌ(カスタードクリームとアーモンドクリームを合わせたクリーム)が入ったパイ菓子「ガレット・デ・ロワ(Galette des Rois)」を食するのが伝統だ。元来、公現祭はクリスマス(12月25日)から数えて12日目の1月6日とされていたが、20世紀以降、フランスも含め、1月の第一日曜日を公現祭とする国が多い(ミサの関係だと思う)。今年は1月3日の日曜日が公現祭の日で、パン屋さんやお菓子屋さんの店頭に、クリスマスケーキ「ビュッシュ・ド・ノエル」に替わって、「ガレット・デ・ロワ」が並んだ。結論、「ガレット・デ・ロワを食べずに1年は始まらない!」

 

▼ガレット・デ・ロワ
 

 

文・写真:マダムユキ(著作権保護から無断複写・複製は禁じられています)


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